この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「明日香、すぐに気づいてやれなくてごめん。苦しかっただろ」

 慶介は明日香を慰めるように、優しく問いかけてくれる。

 そんな心配はいらない。今好きなのは慶介だから。そう打ち明けてしまいたくなるが、苦しい思いをしている彼に本物の気持ちは伝えられない。

 それでも慶介の存在に救われているという事実だけははっきりと伝えたい。

「ううん、大丈夫。私は大丈夫だよ。だって、慶介がいるから」

 慶介からの抱擁が一段と強くなる。

「ああ。ずっと俺がそばにいる。明日香の恋人は俺なんだ。明日香が好きなのも俺。だから、傷つく必要なんてない。俺のことだけ考えていればいい」

 暗示をかけるかのような、とてつもなく強い慰めの言葉をくれる。本物の想いを抱いているのに、そんな言葉をかけられれば、痛いくらいの恋情を覚えてしまう。

 だが、それと同時に慶介のつらい気持ちにも同調する。

 今の言葉はまるで、慶介が自分自身に言い聞かせているようにも感じられたのだ。

 それならば、明日香からも暗示をかけよう。

 もちろん実際にそんなことができるとは思っていないが、ただ心が軽くなってくれればいいという気持ちで同じ言葉を返す。

「うん。慶介も傷つかなくていいよ。慶介が好きなのは私だから」
「そうだ。俺が好きなのは明日香だ」

 そうつぶやいた慶介はそっと抱擁を解いて、明日香を見つめてくる。切ない表情を浮かべている慶介に、明日香は偽りを装って本物の想いを口にする。

「慶介、好きだよ」

 慶介の顔に浮かぶ切なさが増す。奈菜からの言葉ではないから、彼の心には響かないのだろう。

 それでも今、慶介を救えるのは明日香だけ。明日香は彼の心を慰めたい一心で、自分でも思いもよらない行動に出る。

 慶介にそっと身を寄せ、彼の唇に口づけた。
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