お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

父の背負う罪と、理不尽な怒り

病室に一人きりだった紗良の前で、扉が静かに閉じられる。
退室していった警護官たちの足音が遠のいていくと、ようやく静寂が訪れた。

ベッド脇に立った一ノ瀬岳は、無言で紗良の肩に巻かれたガーゼと、右足にしっかりと巻かれた包帯に目を落とす。
喉がひくつくのを抑えきれず、小さく呟いた。

「……私のせいだ。」

「傷つけてしまって……申し訳ない。」

涙を浮かべたまま、父は深々と頭を下げる。
白髪の混じる髪が揺れ、紗良の胸にわだかまりが広がった。

「まだ、犯人の動機もわかってない。本当に、私を狙ったのかも」

淡々と返す紗良の声には、どこか感情を抑え込む響きがあった。

一ノ瀬岳は静かにベッドサイドの椅子に腰を下ろす。

「……いや。グリーンテクノロジーズは、三年前。財務省との官民連携事業で関わりがあった」

「出資を突然引き上げたのは?」
紗良が小さく尋ねる。

「グリーンテクノロジーズの経営者が、議員庁舎の修繕工事に関する入札で、談合の疑惑をかけられた。証拠不十分で不起訴にはなったが、財務省としては透明性を守るため、関係を断たざるを得なかった」

一ノ瀬の視線は、遠くを見ているようだった。

「それだけじゃない。関連グループの飲食系企業が、暴力団のフロントだったとわかった。今も、摘発には至っていないが、業界では有名な話だ」

「……でも、彼は末端の社員だった。何の説明もされず、ただ倒産を聞かされたんだろう。だから怒りの矛先を、私に向けた……」

紗良の瞼が震えた。
命を狙われたことよりも、その動機があまりにも私的で、あまりにも理不尽だったことが胸を締め付けた。
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