お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています
父の問いかけは、穏やかだった。

「……何か、私にできることはあるか」

ベッドの上で目を伏せたまま、紗良は小さく息を吸い、言葉を絞り出す。

「……橘さんを、私の警護から外してほしいです」

一ノ瀬岳の眉がわずかに動く。「なぜだ?」

沈黙の中、紗良の唇が震えた。

「この数ヶ月……橘さんと一緒に過ごして、彼の過去を知りました。
元は安西さんの警護官だったこと。医師としての素養を期待されて、でもその期待に応えられなくて、ずっと苦しんでいたこと。」

その横顔には、どこか遠くを見るような眼差しが浮かんでいた。

「自分と重なるところが、たくさんあったんです。重ねてしまった。
彼はただの警護官じゃなかった。優しくて、業務の枠を超えて、私を一人の人間として、ちゃんと見てくれました。
血の通った……人としての警護を、私に与えてくれた。」

声がかすれる。

「私は、弱さも涙も、見せてはならない人生でした。
でも橘さんは、そんな私をまっすぐに受け止めてくれました」

言葉を継ごうとして、一瞬言い淀む。
けれど、もう隠すことも、ごまかすこともできなかった。

「……私にとって橘さんは、お父さんと同じくらい、大切な人になりつつあるんです」

小さな震えが、白い病衣の肩から伝わる。

「だから……もし私のせいで、彼に何かあったら。彼が“本望だ”なんて言って命を落とすくらいなら……」

紗良は、ぎゅっと目を閉じた。

「私は――殺されたほうがマシなんです」

静寂の中で、病室の機械音だけが淡々と鳴っていた。
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