両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
もっと気楽に子供らしくしていていいんだよと声をかけられたこともあった。
それがずっとよくわからなかったけど、今はわかる気がした。

「渋木唯冬君」

名前を呼ばれ目を開けた。
出番だ。
ずっとこのままでいたかったと思っている自分がいた。

「……はい」

「あ、待って」

俺が起き上がると乱れた前髪をそっと指で直してくれた。
触れる彼女の冷たい指の感触が特別なもののように感じて目を閉じた。

「がんばってね」

優しいまなざし、微笑み、どれも俺の胸に響いて音がする。
それは俺が今まで知らなかった音だった。
彼女の一つ一つのしぐさを忘れないように目に焼き付けてお礼を言った。

「ありがとう」

「ううん」

「次は俺が君を助けるから」

くすりと彼女は笑う。
そうやって笑われてしまうくらい誰の目から見ても俺は脆弱だった。
わかっている。
でも俺の山みたいに高いプライドがそう言わせた。
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