両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
スポットライトがあたるピアノのほうへと俺は向かう。

「曲はドビュッシー、子供の領分から人形へのセレナード」

先生にこの曲を言われた時はよくわからなかったけど、今なら弾ける気がした。
ドキドキする子供の心、初恋、軽やかな愛の告白。
幼い恋はうまくいかない。
『唯冬君。君は優しい。だから、この曲が合うと思って選んだ。君が持つ一番優しい音で弾いて』と俺の先生は言っていた。
優しくない俺にそんなことを言った。
けど、先生は初恋がよく理解できなかった俺のためにそう言ったのだと思う。
今は違う。
自分の音に気持ちをのせることができる。
曲の終わりまで丁寧に弾いた。
拍手が鳴り響く。
舞台袖では雪元千愛が笑顔で拍手をしているのを見てうれしかった―――それと同時に自分は彼女に負けたと思った。
きっと『小さい子が上手に弾いた』それくらいの感覚だろうから。

「雪元千愛さん、出番ですよ」

「はい」

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