両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
苦笑する私に隈井先生は言った。

「昔の君のピアノはまるで機械みたいに正確で退屈でつまらなかったが、この間のコンサートの演奏はよかった。だから、引き受けた」

「いらしていたんですか」

「渋木君からチケットが届いてね。私の妻が絶対に行きたいと言うもんだから。まったくなにがクラシック界のプリンス達だ。ただの悪ガキ三人組だっていうのに」

愛妻家なのか、ぶつぶつと文句を言っていた。

「相変わらず人を罠にはめるのがうまい男だ」

「人聞きの悪いことを言いますね。お世話になった高校の恩師にチケットをプレゼントしただけですよ?」

「心にもないことをペラペラと」

唯冬はにっこり微笑んでいた。
確信犯ね、これは。

「隈井先生、よろしくお願いします。コンクールに挑むにはブランクがあって不安だったので助かります」

「ふむ。そうかね」

隈井先生は白いひげがはえたあごをなでた。

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