両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
そう思っていると、曲はいきなり大きな音から始まって、店の柔らかな空気が壊された。
曲はショパンの幻想即興曲。
それも力まかせの乱暴な音だった。
激しい音に驚き、会話を中断され、少し迷惑そうな目を向けられている。
強引にレストランの雰囲気を変えようとしたのだろう。
それは失敗で、客はさっきより大きな声で話だした。
イラ立つピアノの音、こちらを見ろというばかりの大きな音。
叩きつける指。

「うーん」

知久は唸りながらワイングラスをテーブルに置いた。

「好きでもない女の子に言い寄られている気分だなー」

一曲目が終わるとレストランの支配人がそばに行き、なにか耳打ちしているのが見える。
きっと静かな曲をとお願いしに行ったのだろう。
それが納得できなかったのか、虹亜はみるみるうちに顔を赤くして怒鳴り始めた。

「私の演奏のどこが不満なの?完璧だったじゃない!」

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