両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「雪元さん、そろそろ舞台袖にお願いします」

「はい」

返事をする私に唯冬は手を伸ばした。

「それじゃあ、魔法を」

「悪い魔法使いね」

砂糖菓子を口にいれた私の唇をふさいだ。
キスが甘い―――目を細め、何度もキスをして離れた。

「客席で聴いてる」

「ええ」

一緒に控え室を出て、私は舞台へと向かう。
唯冬は客席へ。
舞台袖へ行く前の通路に隈井先生が立っていた。

「ご心配おかけしました」

「渋木がいれば、私のアドバイスはいらないな」

隈井先生は笑う。
私の高校時代の時にはなかった優しい微笑み。
いつも私を見るときは気難しい顔をしていた。

「……帰りたい場所が見つかってよかった」

「はい」

隈井先生は私を心配していたのだ。
昔も今も。
『心配いらない』
それが最大の激励だろう。
手を振って、客席の方へと向かっていった。
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