両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
確かに難易度は高いけど―――私の心を見透かしたかのように隈井先生は言った。

「君は重たい曲や悲しい曲をうまく弾く」

その言葉にどきりとした。
隈井先生は鋭い。

「渋木君と一緒に弾く時は明るい曲も華やかな曲も素晴らしい演奏をみせてくれる。だが、一人の時はどうかね」

「……あまり得意ではありません」

「そうだろう。陣川君のようになれとは言わないが、自分の気持ちを隠して弾くことは難しい。やはり人間だ。左右される」

どんなに隠していても演奏に自分の癖が出てしまう。
それだけじゃない。
昔と違う気持ちで弾いているから、以前より自分の気持ちが演奏にでてしまうのだ。
それが悪いことではないと唯冬も先生も言ってくれるけど―――

「渋木君と楽しい思い出をたくさん作りなさい。きっとそれが君の演奏にとっていい糧になるだろうから」

「はい……」

「さて。聴かせてもらおうか。弾く時は渋木君を想って弾きたまえ」

からかわれたのか、本気なのかはわからない。
けれど、隈井先生が心配して言ってくれたということだけはわかった。
< 223 / 227 >

この作品をシェア

pagetop