両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
私が唯冬と同じ音楽事務所に所属し、ゲストで呼ばれたり、小さなリサイタルを開いたりしていることを知っているのだ。

「隈井先生」

ピアノの前に座り、指輪をチェーンに通した。
私と唯冬をつなぐ指輪。
それに触れるといつも安心する。
昔とは違う。
私には助けてくれる人がいる。
隈井先生もその中の一人。

「なんだね」

「長生きしてくださいね」

「馬鹿者!!まだ古希にもなっとらんわ!!」

「失礼しました」

まだまだ現役だ!と叱られてしまった。
くすりと笑って椅子を引いた。

「渋木君に似てきたんじゃないか」

「それはちょっと困ります」

さすがの私も真顔で否定してしまった。
唯冬は私の夏休みに合わせてコンサートのスケジュールを入れた。
しかも、旅行気分で終わった後は温泉に行こうと言われた。
地方のコンサートを入れたのは温泉のためじゃないわよね?
すでに高級旅館の予約をしていたのを知っている。

「行動力がありすぎます」

「渋木君はあの三人の中で一番理性的だと思うがね。君の事以外は」

比べる相手がおかしいです、先生。
弾く前の儀式のように鍵盤を指でなでていることに気づいた。
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