両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
無意識のうちに。
これは唯冬の癖だった。
困ったわ―――似てきたのかもしれない。

「さあ、聴かせてくれ。大学生活の成果を」

隈井先生らしいプレッシャーをしっかりかけて、私の音を目を閉じて聴いた。
鍵盤の上を軽やかに指が踊る。
愛する人との出会いの喜びでいっぱいの曲。
ダンスを踊ってしまうのではというくらいの足取りの軽さを表現する。

「ふむ。まあまあだ」

隈井先生の『まあまあ』は上出来の意味。

「渋木君との結婚生活も大学も楽しいようでよかった」

ええ、幸せです。
そう心の中で返事をして真剣に弾いた。
でないと、隈井先生へのお礼にならないから―――これはレッスンというより、先生への感謝の気持ちの演奏だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(隈井先生視点)

「また来てね」

妻は自分が作ったクッキーをお土産に手渡していた。
雪元さん―――いや、渋木千愛さんは妻が作ったクッキーを嬉しそうに受け取って、何度もお礼を言っていた。
初めて妻の焼き菓子を口にした時、千愛さんは無言だったが、表情を見るととても感動しているのがわかった。
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