両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
知久は俺を見て『恋の病だな』と言いながら、椅子に深く腰かけた。

「曲はラ・カンパネラか。コンクールで弾くかね……」

「彼女なら弾く。小学生の頃からリストを弾いていたから余裕だろう」

「楽しみだね」

さっきまで眠そうにしていた逢生がしっかりと目を開けた
彼女の名がアナウンスが流れ、場内が水を打ったように静かになる。
舞台に出てきた雪元千愛は赤いノースリーブのロングドレスを着て、物おじせずピアノまで背筋をすっと伸ばして真っ直ぐ歩く。
その堂々とした立ち姿は女王のようだった。
まあ、間違いなく彼女は女王だ。
この場で彼女に勝てる者はいないのだから。
おじぎをし、座る椅子を調整してから座ると彼女はピアノを見おろす。
絶対的な支配者、服従させるがごとく指を高くあげ、振り下ろした。
―――最初の音を鳴らす。
それだけで、場は彼女のものとなる。

「すごいな……」

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