両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
紙袋から出てきたのは練習教本ハノンだった。
六十番まである練習曲。
指の練習用に使うもので実はあんまり好きじゃない。

「不満そうだな」

「そんなことない……」

唯冬には嘘がつけない。
というか、私の心がわかるの?というくらいすぐに考えていることがバレてしまう。
そして、悔しいくらい私の先を読む。

「指のケアをきちんとすること。それから、ちゃんと食事をすることと睡眠時間はとること」

「そんなの気にしたことないわ」

「奏者にとって体は音を出すための楽器の一部だろ?」

「そうだけど。誰も私にそんなふうに言ったことなかったから。そう言われてもわからない」

「じゃあ。これからは意識するんだな」

思えば、今までは両親は私のことは好きにさせていた。
弾きたいだけ弾かせて、食べたくなったら食べる。
冷えた食事をそのまま食べることもあった。
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