両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
人の悪い笑みを浮かべる。
どこまでお見通しなのだろう。
今、私は弾きたい。
なにも考えずに無心で。
そこになんの理由もなく、弾きたいという気持ちだけがあった。
だから、奏でることはできないけれど、弾くことはできる。
その確認のために。

「千愛の邪魔になりたくないから、おとなしくするかな。夕飯は食べていけばいい。ゆっくり弾けるだろ?」

「あ、ありがとう」

唯冬が部屋から出ていくとホッとして、椅子に座った。
整えられた設備に二台のピアノ。
そして、ハノン。
私がここに来ることがわかっていたかのようにすべてが整えられていた。
弾けるかどうかもわからない私のために。
私のことをからかわなければ、本当に親切でいい人だと思う。

「千愛」

「はっ、はい!」

悪いことはなにもしていないのにドキッとして声がうわずってしまった。
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