両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
やっぱり弾けない。
私は―――

「弾きたいなら、どうぞ」

その声にハッとして我に返った。
自分がいるのは馴染みのカフェだと気づいて、ほっとした。

「……いえ、勝手に触ってすみません」

「君ならいいよ」

どういう意味?
振り返るといつの間にか私のそばにバイトの男の人が立っていた。

「弾かないの?」

鍵盤に触れただけでも奇跡に近い。
ピアノをやめてから一度も触れていなかったのに。
ふわりと香る彼のは香りはグリーン系の香水で甘くない香りが私の頭を明瞭にさせた。
こちらが現実……
私が首を横に振るのを見た彼は私の顔を上から覗き込んだ。
まるで私の目を逃がさないように。
逃げれないように追ってきた。
近くで見るとその目の色も髪も不思議でジッと見つめてしまった私に彼は目を細めた。

「じゃあ、俺が弾こうか?」

「弾けるの?」

私の問いかけに彼は笑った。
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