両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
「千愛はなにが弾きたい?」

さっきまでの冷たい空気は消え、私の顔を優しい目で覗き込んだ。
これじゃ、どこからどうみても恋人同士みたいにみえてしまう。
しかも、私にかけた上着はそのままだし。

「あ、あの、その前に上着をどうぞ」

「ずっと着てたら?千愛が俺のものってわかるように」

慌てて脱いで上着を押し付けた。

「残念だな」

「からかわないでっ」

「本気なのに」

上着を着ながら、唯冬はくすっと笑った。

「なにかおかしかった?」

「いや、千愛の香りがするなって思って」

「……っ!!」

「そんな怖い顔でにらまなくても」

誰がそんな顔にさせていると思っているのだろうか。
まったくすぐに私をからかって楽しむんだから、とんでもない人だ。
楽譜売場に唯冬がいるせいか、遠慮して遠巻きにこちらを見ている人達がいた。
早く選ばないとと思いながら、棚に目をやった。
私が弾きたい曲。
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