蜜味センチメンタル
「後悔なんて、してないよ。ただ、ちょっと…すごく……恥ずかしいだけ」

「分かります。僕も同じ」

「……ほんと?」

羅華がゆっくりと尋ねてきた。
決して責めることも、急かすこともしない声だった。

「ほんとです。こんなにちゃんと誰かを好きになるの、初めてだから」

「……はじめて?」

「はい。だって、こんなに近くにいても、まだ足りないんです」

どれだけの人と過ごしても、どこか満たされなかった理由。こうして隣で眠る人を、失いたくないと思う感情の重み。

全部、羅華が教えてくれた。

「だから…もう少しこのまま……抱きしめたままでいいですか?」

離れたくない。離したくない。
もっと触れたい。キスがしたい。

「……うん」

微かに涙ぐんだ羅華が小さく頷いたとき、ふたりの間にふわりと温かい空気が流れた。

窓の外では、朝の光が街をゆっくりと照らし始めていた。日常はもうすぐ、ふたりのもとに戻ってくる。

けれどその前に、ほんの少しだけ――このまま時間が止まってしまえばいいと思った。

そして那色は、もう一度だけ、羅華にキスをした。
それは、これからを約束するような、静かな誓いだった。
< 136 / 320 >

この作品をシェア

pagetop