蜜味センチメンタル
那色はしばし無言でそれを眺めたあと、ふっと息を漏らして微笑んだ。
「……ありがと。大事にする」
「ああ。会社に入れば、いろんなヤツに揉まれるだろうけどさ。大事なのは、誰にどう思われるかじゃなくて、自分がどう在りたいか、だ。お前なら大丈夫だろ」
「……説教っぽいけど、ちょっと沁みた」
「だろ?酒飲んでないときの俺、結構いいこと言うから」
「いや、今も飲んでるじゃん」
「ビールは水。ほぼノンアル」
くだらないやりとりに、二人して小さく笑った。
那色はもう一度、手元の名刺入れを見つめた。その革の質感と、大和のくれた言葉が、不思議と背中を押してくれる気がした。
——ちゃんと、話そう。僕のことも、家族のことも。ちゃんと、自分の言葉で
「……大和」
「ん?」
「来年も……よろしく」
那色の言葉に、大和が意外そうに目を開く。
「ああ。こっちこそ。ま、年明けの営業で浮かれポンチが抜けきってなかったら、容赦はしねえけどな」
「なにそれ。自分は恋人いないからって僻み?」
「うっせ。しばらく俺の恋人は仕事だっつーの」
また笑い合って、那色は残っていたジュースを飲み干した。
外は冷たい風が吹いている。
けれど、心の奥には静かに灯る焚き火のような温かさがあった。