蜜味センチメンタル
「大和の存在は、僕にとってずっと……答えの出ない問いみたいなものでした。尊敬してたし、好きだった。……でも、それ以上に、母の気持ちを思うと複雑で。彼が何をしたわけでもないのに、心が追いつかなくて……」
その手が、羅華の手をぎゅっと握る。
「……母は僕にとって、唯一の人でした。どれだけ父が別の家庭を想っていたとしても、母は僕のことだけは——心から愛してくれた。そう、思いたかった」
語尾がかすれる。羅華は胸が詰まるような思いで、その言葉を受け止めた。
「父が誰を愛していたかなんて、僕には関係ない。でも……それを隠されていたことや、母が全てを許容していると知ったとき、母まで遠くなった気がしたんです。だから僕は……せめて、僕だけは母を守りたかった。母の味方でいたかった」
那色の声に、かすかな震えが混じる。
「……でも、何もできなかった。ただ隣にいて、母の背中を見てることしかできなくて。結局そのまま逝ってしまった。……そんな自分が、いちばん許せなかったんです」
羅華は言葉を失ったまま、ただ那色の手を強く握り返す。鼓動が伝わってくる。彼の体温が、心の奥の痛みをそっと浮き上がらせてくるようだった。
那色はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……母がいなくなってからは、自分がどこにもいない気がして。何をしてても、誰といても、何も感じなかった。何かに触れていないと自分の輪郭さえ分からなくなりそうで……だから、誰かを求めた。たとえ一時でも、あたたかいふりをしてくれる誰かを」
羅華は息を呑んだ。その言葉の重さが、胸の奥まで沈んでいく。