蜜味センチメンタル

「…羅華さん」

不意にかけられた声は思いの外近く、羅華はびくりと体を跳ねさせた。

肩に添えられた手が恐ろしい程に優しく感じ、戸惑いを隠せなかった。

「立てますか。ここじゃ目立つので、場所を変えましょう」

「…え…」

「奥の控室に案内します」

「で、でも…」

「いいから」

肩を引かれ、ハイスツールから体を下ろす。そのまま誘導されるままにstaff onlyの扉を抜け、初めて見る通路を通って小さな部屋に通された。

「ここで待っててください。店長と話してきます」

「那色く、」

名前を呼ぼうとした声は顔に押し付けられたタオルに遮られ、口元にそれを落として見えた那色は眉間に皺を寄せていた。

「絶対に、ここで、大人しくしててくださいよ」

圧を強めに言い残し、那色は部屋を出て行った。

「……」

一人きりの部屋をぐるりと見渡す。

ソファーと洗面台、そして小さな冷蔵庫があるところから休憩スペースなのだと予想する。

居心地の悪さを感じながら何度か流れてくる涙を拭っていると、目元のメイクが崩れているのに気付いた。

夏じゃない為アイラインをウォータープルーフにしていない事を思い出し、慌てて化粧ポーチを取り出す。鏡で目にした自分の顔面に小さな悲鳴をあげ、持ち運び用のクレンジングシートで全てのメイクを落とすことにした。

何度も目を擦ったせいで真っ赤になっている。素顔になりだいぶ冷静さを取り戻してきたところで、急に恥ずかしさが込み上げてきた。


——やってしまった…


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