蜜味センチメンタル
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その日の午後、羅華は社内の大会議室にいた。
今日は、シスイ食品70周年記念式典のプロジェクトチーム全体会議が予定されていた。

営業、企画、プロデュース、制作など各部門からキーパーソンが集まり、本格的な準備がいよいよ動き出す。

「では、午後の会議、進めます」

進行役の一声で、軽く緊張感のある空気が会議室を包む。プロジェクターの作動音と、紙をめくる音が重なるなか、静かな熱が漂っていた。

羅華は営業部の一員として、その中ほどの席に着いていた。

担当企業であるシスイ食品との窓口を務める立場として、現場にクライアントの意向を正確に伝えることは、自分の大切な役割だ。

社内外の調整は時に神経をすり減らすが、この仕事には慣れている。

今は、個人の感情を持ち込む余地などない。職務に徹することだけに、意識を集中させた。

「まずは、ステージ進行と構成案について。昨日のフィードバックを踏まえ、資料4ページ目をご覧ください」

前方のスクリーンに、演出図やタイムラインが映し出される。昼夜2部制の構成にあわせた演出案、ステージ上の動線、照明の切り替え。

説明はテンポよく進み、周囲も真剣に資料を追っていた。

羅華は画面を見ながら必要な情報をPCに打ち込み、タスクの優先度を頭の中で整理する。

式典は、企業にとって単なるお祝いではない。
ブランドの“今”を発信し、社会との接点を可視化する重要な場。それを任されている責任の重さは、何度経験しても消えるものではない。

わずかに背筋を伸ばし、もう一度、集中を高める。一つ息を整え、羅華は手を挙げた。

「すみません。営業から一点、補足があります」

プロデュース部の担当が手を止め、視線が集まる。

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