蜜味センチメンタル
本当は、ただ「会いたい」と返してほしかった。
「すみません」の前に、ほんの一言、「会いたい」って言ってくれたなら、その一行だけできっと救われたのに。
でもそれはわがままなのかもしれない。
彼も、彼の立場で戦っている。背負っているものが違うことも分かっている。
それでも、恋人としての自分が今の彼にとってどこにいるのかが分からなくなってしまいそうで。
羅華はスマホを伏せて、深く小さく息を吐いた。
会いたいと思ってくれてるのに、会えない。
やさしい言葉なのに、どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう。
不意に、さっきの会話がまた耳に蘇る。
——「静かに目立つって感じするよね」
——「御曹司なのに、ちゃんと中身もあるってギャップがやばい」
彼の名は、すでに自分の知らない誰かの中で特別な存在として語られていた。
ただの人じゃない。その言葉の重みが、今になってじわじわと実感になる。
だからこそ、いま彼が見せてくれている誠実さが、なぜか余計に遠く感じてしまう。
——こんな私、那色くんには見せられない。
コーヒーを飲み干す。
すっかり冷めきった苦みだけが、まだそこに残っていた。