蜜味センチメンタル
羅華の指差す方には中層階のマンションが立ち、今立つ場所の横にはコンビニが明るい光を放っていた。
忙しい職種の為、コンビニ近くである事を条件に選んだ住居。築年数もそれなりに浅くオートロック完備。
この道に差し掛かるたび安堵感を覚えていたが、今だけは、少し違っていた。
「…ほんとに近いですね」
「う、うん…」
「……」
「那色くんの家は…この辺じゃないの?」
「はい。なのでいつもは店長に車で送ってもらってます」
「……そうなんだ…」
会話が途切れ、気まずい空気が流れる。こういう場合どう送り出すのがいいのだろうと言葉を選んでいると「羅華さん」と、不意に名前を呼ばれた。
「肉まん1個分、帰る前に付き合ってくれませんか」
那色が口にした予想外の言葉に、へ?と羅華の口から間抜けな声が漏れる。
「に、肉まん?」
「いつもは賄いもらって帰るんですけど、今日は食べ損ねてしまったんで」
「……」
「僕お腹空きました。お願いします」
なんだかずいぶん可愛らしいお願いをされ、ときめきとは違う意味で胸が射抜かれた。那色が賄いをもらい損ねたのも自分のせいであるしと多少の罪悪感を抱いた羅華は、分かったと首を縦に振る。
「…でもここ、イートイン無くて外で食べる事になっちゃうから……いっそのこと、うちに来る?」
「…はい?」
「それならお湯もレンジも貸せるから、なんでも食べれるよ」
「……」
「秋とはいえもう夜は冷えるでしょ。那色くん、今はシャツ1枚しか着てないみたいだし…そんな格好でいたら風邪ひいちゃうよ」
実際、ジャケットを羽織っている羅華でさえ肌寒い。諸々の負い目からの提案だったが、那色は表情を変える事なく尋ねてきた。
「…羅華さん、あなた危機感って知ってます?」
「うん。まあ、でも、那色くんが悪いことしたら大和さんにチクッちゃえばいいから」
「……」
「私もお腹空いてきたから、この際一緒に食べようよ」