蜜味センチメンタル
———

夜の風が少し冷たくなりはじめた頃、羅華はふらりとバーに足を運んでいた。

ここに来るのは、本当に久しぶりだった。

いつものように控えめに扉を開けると、カウンターの奥でグラスを磨いていた大和が、ふっと笑みを浮かべた。

「ああ、羅華ちゃん。いらっしゃい」

カウンターの奥から静かに声をかけてきたのは、大和だった。穏やかな笑顔と、あたたかみのある声音。羅華を迎え入れるその一言に、優しさが宿っていた。

「久しぶりだね。元気にしてた?」

「……はい。なんとか」

短く返しながら、羅華は少しだけ息を吐いた。

この場所に来るのも大和に会うのも本当に久しぶりだったけれど、変わらない空気がそこにあるだけで、不思議と心が緩んでいく。

カウンターの席に腰を下ろし、差し出されたグラスを受け取った瞬間──ひとつ開けられた席のむこうから、声がかけられた。


「こんばんは。おねーさん」

その軽やかな声に、びくりと肩が跳ねた。振り向くと、奥のソファ席に無造作に腰掛けていたのは、嵐だった。

——えっ、なんでここに?

思わず目を見張る。

「……嵐くん?」

「そっ!嵐ちゃんでーす」

揶揄うようににんまりと笑いながら、グラスを片手に嵐が手を振る。無事に大学を卒業できたのだろう。スーツのネクタイは少し緩められ、何かの打ち上げ帰りなのか、ラフな雰囲気を漂わせていた。

「……どうしてあなたがここに?」

「んー?そりゃ俺だって大人の男だし?那色のにーちゃんとは昔から仲良くさせてもらってるし?」

ね?と大和に同意を求める嵐に、大和が呆れたようにで答える。

「お前も那色と同じく、俺にとっちゃもれなくクソガキでしかねえけどな」

「ひっど!最近は落ち着いてるし!」

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