蜜味センチメンタル
嵐が肩をすくめるように言うと、大和は苦笑を漏らしながらグラスを拭いた。
「本当に落ち着いた奴は、自分で言わねえんだよ。那色見てたらわかんだろ」
「あーね。それはほんとにそう」
嵐の視線がふと、羅華に向く。
「てかさあ、おねーさん、なんかあった?あん時と同じ顔してるよ」
「え……」
思わず顔を上げると、嵐は小さく首をかしげた。
ふと横を見ると、大和もグラスを拭きあげながら、静かな眼差しを向けている。
「……そんなに、顔に出てる?」
「出てる出てる。心ここにあらずって感じ。わかりやすいよ」
ふざけた口調とは裏腹に、その言葉はやけに的確で、羅華は視線を落とすしかなかった。
大和の穏やかで静かな気配が背中をそっと押してくれるようで、羅華は俯きながら、ぽつりと声をこぼす。
「……那色くんとは、うまくいってないとか、そういうんじゃないの。ただ……」
うまく言葉が続かない。喉の奥に何かが詰まっているみたいだった。
「……釣り合ってない気が、するの。私と、那色くん。立場も、育ちも、世界の見てる高さも……全部、違いすぎて」
大和はグラスを持ったまま、何も言わずに耳を傾けていた。
「今、那色くんはすごく頑張ってて、ちゃんと社会の中でも認められてて……どんどん、すごい人になっていってるのに、私は……」
その先がどうしても言えなかった。どんな言葉にしても、ただの言い訳みたいに思えて。
空気が少し重くなりかけたそのとき。
「ちょ、ちょっと待って。ストップ」
嵐が手を挙げて、軽やかに空気を切った。
「いまの流れさ、一旦止めていい? 大前提としてさ……おねーさん、那色がシスイの跡取りって知ってんの?あいつが自分で言ったの?」
まるで見当違いな返しに、羅華は一瞬きょとんとし、眉を寄せる。
「……まあ、はい。一応、那色くんから教えてもらってます」
短く返すと、嵐はぽかんとした顔で息を止めたように固まった。
「……うっそ。マジで?……ガチだとは思ってたけど、そこまでとは……」
手を額に当て、仰ぐように嵐が言う。
「おねーさんさ、それ、めっちゃデカいよ。あいつ、自分が“紫水の人間”だって認めるまで、死ぬほど葛藤してたから」