蜜味センチメンタル
言葉尻を待たずして体を引かれ、落ちてくる顔に羅華は咄嗟の反応を忘れた。
たった一瞬の、触れるだけのキス。
それでも衝撃を与えるには十分で、那色の胸を押した反動でバランスを失い、羅華は膝から崩れ落ちた。
「!、…な…っ」
状況が読み込めず、尻餅をついて那色を見上げる。突然のキスをしてきた張本人は、ただ静かに、羅華を見下ろしていた。
「…キスは初めてですか?」
訳の分からない質問を投げかけながら、那色もまた膝を折り腰を落とす。混乱の中応えることを忘れた羅華だったが、またも近付いてきた顔に勢いよく腕を伸ばした。
「ちょ、やめ…っ」
「ここまで連れ込んでおいて今更カマトトぶるとか、鈍感もここまできたら犯罪ですね」
「なに…言って…」
「だって元彼を忘れさせて欲しいって思ったから、あんな話を僕にしたんじゃないんですか」
伸ばした羅華の腕を掴み、那色が身を寄せる。
「…っ、そんな、こと」
「じゃあなんで、誰にも話した事のない話を僕にしたんです?」
「……」
「素直に認めたら?僕が気になり始めてるって」
羅華は静かに目を見開く。
「別に一目惚れなんて何も驚く事じゃないでしょう」
「ひとめ、惚れ…?」
「惹かれる運命って言った方が女性は好きかな。元彼の先輩にそうだったなら僕に一目で落ちたって何も不思議はないと思いますけど」
「そんな…」
「…こうされる事を、期待、してたんですよね?」
「…!」
そんなこと、あるわけがない。あっていいわけがない。
だってそれを認めてしまったら、これまでの想いはなんだったんだと、自分が信じられなくなる。
前に進まねばと何度も思った。忘れたいと何度も願った。それでも焦がれ、なお手放せなかった気持ちをこんなに簡単に塗り替えられるなら、これまで彼を想ってきた日々が全て泡沫に消えてしまう。
そんなのあまりに、非情じゃないか。