蜜味センチメンタル
その背筋には疲れがにじんでいたが、足取りは迷いなく確かだった。
そして羅華と那色の前で立ち止まると、深く一礼した。
「……妹が、取り返しのつかないことをしました。羅華さんにも、あなたにも、心から謝罪します」
その声は静かで、濁りがなかった。誰のせいにもせず、逃げも隠れもせず、ただ自分の責任としてその言葉を紡いだ。
羅華は何も言わなかった。ただその謝罪が嘘ではないとわかるからこそ、言葉を返すことができなかった。
那色も黙っていた。ただ、わずかに視線を逸らすように目を伏せ、緊張を解くように息を吐いた。
弥はそのまま、崩れたままの藍良のもとへ向き直る。
「藍良。……もう、いい加減にしろ」
言葉は低く抑えられていたが、決して優しさではなかった。
幼い妹を叱る兄の声ではなく、向き合わなければならない“責任”としての声音だった。
藍良は顔をあげる。けれど、その表情は悲痛の限界を超えていた。
「……だって…だって、私ばっかり……ずっと、ひとりで……」
藍良の目から、涙が堰を切ったようにあふれ出す。言葉にならない嗚咽が、喉の奥で震えていた。
「お兄ちゃんだって、ずっと羅華のことばっかりで……私の事なんか、一度も気にかけてくれなかったじゃない……!」
その叫びには怒りも、嫉妬も、哀しみもすべて混ざっていた。
羅華に向けていたはずの感情が、ここで初めて兄に向かってあふれ出したようだった。