蜜味センチメンタル

弥は黙ってその声を受け止めていた。

ひとしきり泣いたあと、藍良の肩が大きく揺れ、膝にすがるように崩れる。

弥はその身体を受け止めながら、静かに言った。

「……そうだな。あのとき、俺がちゃんとお前に向き合ってやるべきだったんだ。羅華を諦められなかった自分のことばかりで、兄として、お前をちゃんと見てやれなかった」

藍良は泣きじゃくったまま首を振ったが、弥は続ける。

「お前が羅華を責めたのも、暴走したのも、理由がないわけじゃないのは分かる。……でも、どんな理由があっても、お前のしたことも、そのやり方も許されない」

「……っ」

「それでも、俺は……お前の兄だから。お前がこうなったのも俺のせいだから、一緒に背負うよ。──全部、今更だけどな」

その言葉には、断罪でも赦しでもない、“引き受ける”という決意が込められていた。

「お兄、ちゃ……」

藍良の手が、小さく弥の服をつかんだ。

「ごめんなさい、ごめんなさい…!」

弥はうわごとのように謝り続ける藍良の隣に立ち、もう一度羅華と那色へ深く頭を下げた。

「……妹が本当に迷惑をかけました。もう二度と、妹は関わらせません。謝罪でも慰謝料でも、どんな形で要求していただいて構いません。……なのでどうか、彼女の人生を潰すような情報を出す事は、勘弁していただけませんか」

「……」

弥が深く頭を下げる。その言動に羅華が返す言葉を探す前に、隣に立つ那色の気配が変わったのを感じた。

無言のまま一歩前へ出た彼の背中には、明確な怒気が滲んでいた。羅華が見上げると、その横顔は怒りに硬く結ばれていた。冷たい視線が藍良を鋭く射抜いている。

「……なにをふざけたことを」

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