蜜味センチメンタル
廊下には、静けさだけが残った。隣に立つ那色の気配がようやくやわらかさを取り戻し、温かみをまとって寄り添ってくる。
羅華自身も、浅くなっていた呼吸がようやく深く吸えるようになった。
そっと息を吐いた瞬間、全身を包むように疲れが押し寄せた。へたり込みそうになる足を、なんとか支えた。
「……ごめん」
那色の声が、低く耳元でささやかれる。
「もっと早く来るべきだった。こんなふうに、痛い思いをさせる前に……」
彼の目にはまだ怒りの余韻が宿っていたが、それ以上に苦しげな後悔が滲んでいた。自分自身を責めるような声だった。
「警告なんて生ぬるいことしないで、最初から動いていればよかった……」
羅華は那色の手を取って、首をふる。
「……大丈夫だよ。それにこれは、私が自分で決着をつけなきゃいけないことだったから」
かすれた声だった。でも間違いなくそれは本音だった。逃げなかった。自分で立って、自分で終わらせた。
けれど、その「終わり」がもたらす痛みは、想像以上に深かった。
那色がそっと手を伸ばし、腫れた頬に触れるか触れないかの距離で指先を添える。冷たい肌が、熱を静かに吸い取っていく。
「……痛む?」
その問いかけが、あまりに優しくて、胸の奥に沁みた。
羅華は首をふり、その手に自分の手を重ねる。