蜜味センチメンタル
「ほんとに大丈夫。それより……私のために怒ってくれて、ありがとう」
那色の瞳がかすかに揺れる。
「私を、守ろうとしてくれた。……すごく、嬉しかった」
その言葉に、笑みがこぼれた。胸の奥が温かくなって、「もうひとりで頑張らなくてもいいんだ」と、初めて心から思えた。
泣く時間は、もう終わったのだと。
那色は何も言わず、ただ羅華の手を握り返す。そのぬくもりが、言葉よりも確かだった。
羅華は目を伏せて、ぽつりとつぶやく。
「……なんか、いろいろありすぎて、疲れちゃったなあ…」
式典の準備、本番、藍良との対峙。一日のうちに感情の起伏が激しすぎて、もう身も心も限界だった。
「……そうですね。羅華さん、今日はもう上がれますか?いや、というか、帰りましょう。頬も冷やした方がいいですし」
「ええ?大袈裟だよ。これくらい放っておけば……」
「ダメです。ほら早く会社に連絡して。送りますから」
「……もう、強引だなあ」
そう言いながら、声にはどこか安堵が混じっていた。
言葉を交わすたびに、少しずつ心の糸がほぐれていく。静かでやさしい温かな空気が、ふたりのあいだにゆっくりと満ちていった。
ロビーへ向かうエレベーター前。誰もいない廊下に、ふたりの足音だけが静かに響いていた。
やがてエントランスに着くころには、式典の片付けも終わりに差しかかっていた。