蜜味センチメンタル
「お断りします。僕らの関係に口を挟ませる気なんてありません。そういうことなら僕も帰るのはやめます」
はっきりとした拒絶を見せる那色に、秘書は動じることなく、静かに続ける。
「“ふたりで選ぶ未来なら、ふたりで来るべきだ”──そう社長は申しておりました」
「……なんですか、それ。僕らを試すつもりですか」
「いいえ。これは“招待”です。社長は直接、お二人とお話がしたいとおっしゃっています」
「………」
重苦しい沈黙のあと、小さな舌打ちが聞こえた。
「……了解しました。二人で伺います」
その一言は、はっきりとしていて、もう揺れていなかった。
「それでは時間になりましたら、車をご用意して正面ロビーにてお待ちしております」
足音が遠ざかっていく。ドアの閉まる音が、静かに空間を締めた。
「羅華さん」
少しして、部屋の中に那色の声が戻ってくる。
バスローブ姿のまま真剣なまなざしで歩み寄ってきたその表情は、どこか緊張をたたえながらもやわらかくて。
「……父が、僕たちふたりで邸に来てほしいそうです。今日、これから」
「え……?」
胸の奥が、きゅっと音を立てたように締めつけられる。
「私も……?」
「ええ。はっきり、“二人で”と」
「でも……どうして、こんな急に……?」