蜜味センチメンタル
自然にこぼれた言葉だった。昨日のこと、いまだに頬と心に残る痛み。
その全てがようやく落ち着きかけていたところに「紫水家」からの呼び出しは、簡単に受け入れるにはあまりに現実離れしていた。
不安がにじむ羅華の声を、那色は黙って受け止めていた。そして、そっと手を差し出す。
「……大丈夫。僕が絶対に何も言わせません。ちゃんと隣にいるし、守ります」
その手が、まっすぐに差し出されている。
「那色くん……」
一歩踏み出すのが怖いのは、那色じゃなく、自分の方。そう気づいた瞬間、羅華は喉元までせりあがる不安ごと、息をのんだ。
少しだけ視線を落とし、迷うように手を見つめる。
そして意を決したようにゆっくりと、その手に自分の手を重ねた。
握り返された温もりが、静かに心を溶かしていく。
「……うん。わかった……」
不安が消えたわけじゃない。けれどそれ以上に、隣にいてくれる彼を信じたいと思った。