蜜味センチメンタル

「はい、どーぞ」

「……」

軽く睨みながら画面を見るとトーク画面が開かれていた。「Nashiki」の名前の下には、ほとんど使った事のないスタンプがひとつ押されていた。

「羅華さんの苗字、原岸っていうんですね」

プライベート用のスマホだが、会社関係の人間とも連絡を取る機会があるため登録はフルネームにしていた。

トークメンバーに名前が並ぶ知り合い達も殆どがそうだったが、那色の登録名は下の名前だけだった。

「…那色くんは、名前だけなんだね」

何気なく問いかけると、那色はニヤリと笑った。

「少しは僕のこと、気になってきました?」

「…那色くんって自信家だよね。単純に、私のフルネームを知られたから逆にどうなのかなって思っただけだよ」

「そうですか」

那色が答えたのはそれだけで、苗字については教える気は無いらしい。意味ありげに視線を向けると、その意図に気づいた那色は目を細めて言った。

「羅華さんが僕に身も心も全てくれるっていうなら、教えてあげてもいいですよ」

「…いや、重いな」

「じゃあこの話は一旦据え置きってことで」

さっきまでの真顔が嘘のように、鼻歌でも歌いそうなご機嫌顔で那色は自分のスマホを取り出し何かを確認する。

その指が数度動いた直後、羅華のスマホに通知が届いた。

[黒]

画面を見るとたった一文字、色の名前が書かれていた。

「?なにこれ。どういう意味?」

「リクエストです」

「なんの?」

「下着の色」

「……」

「エロければエロいほどいいです。羅華さんスタイルいいんで絶対似合いますよ」

「…怒るよ」

「それもいいですけど、羅華さんは笑った顔の方が可愛いと思います」


だめだ。何を言っても響かない。
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