蜜味センチメンタル
道すがらの会話は多くなかったけれど、ふたりの間に流れる空気は不思議とあたたかかった。
今日という一日が、ようやく“ふたりの時間”として静かに移り変わっていく。そんな感覚だった。
しばらくして羅華の家に着くと、外の静けさとはまた違った温もりがふたりを出迎えた。
湯を沸かし、お茶を淹れる。
先にソファに座っていた那色にマグカップを手渡すと、彼はお礼を言って受け取り、そしてぽつりとつぶやいた。
「……今日、一緒に来てくれて、ありがとうございました」
羅華は、カップを口に運ぼうとした手を止め、軽く微笑んだ。
「お礼なんかいらないよ。むしろ、一緒に話を聞けてよかった」
「……はい…」
どこか浮いたような返事だった。
ほんの少し間を置いて、那色が続ける。
「正直……僕一人じゃ、受け止めきれてたか、自信がありません」
「……」
「……あの人なりに、僕のことをずっと見ててくれたのは……わかります」
その声には滲むものがあった。羅華は、黙ってうなずいた。
「夫としては……一人の男としては、最低だったと思う。でも、父親としてのあの人は、悪い人じゃなかった。祖父母に後継者として厳しく育てられてきた中で……あの人は、いつも僕の味方でいようとしてくれたから」
「……うん」
「でも……母のことを思うと、やっぱり……許せない」
言葉の最後が、わずかにかすれる。