蜜味センチメンタル
「はーい!」
羅華の問いかけに、メンバーのうち一人の男が元気よく声を上げた。
「お姉さんの名前と連絡先が知りたいです!」
茶化すようなその発言に、羅華は完璧な営業スマイルを浮かべて応じる。
「レグナスの原岸と申します。今日は一日こちらのスタジオ内に居ますので、何かあれば気軽にお声がけくださいね」
無難にかわすその返答に、他のメンバーから「フラれてんじゃねーか」と笑いが起きた。
「すみませんねえ、うちのが愛想がなくて」
すかさず加藤が割って入り、軽く頭を下げながら笑顔でフォローを入れた。
「細かい演出についてはこのあとディレクターから説明がありますので、そのままこちらでお待ちいただけますか?」
おそらく助け舟のつもりだろう。羅華は加藤にタレント対応を任せ、スタジオの奥へと向かう。
カメラマンや照明スタッフと段取りを確認しながら、粛々と撮影の準備を進めていく。やがて、照明スタッフから「セット完了です」と羅華に声がかけられた。
「それでは、撮影に入ります」
静かに、けれど確かに現場を動かす羅華の声が、スタジオに響いた。