蜜味センチメンタル

Stratosとの撮影は、想定よりも順調に進んだ。

元よりいくつものCMを担当しているメンバーだ。慣れているのだろう。カメラの前ではそれぞれの個性が自然と滲み出ていた。
 
「はい、OKです」

モニターを確認したカメラマンの声に、スタッフたちが拍手する。羅華も内心で安堵の息を吐いた。

「お疲れ様、原岸。うまくいったな」

加藤が声をかけてくる。羅華は軽く笑顔を返した。

Stratosのメンバーも満足げに笑い合っている。中にはさりげなく鏡で髪型を確認している者もいて、アイドルらしさを感じさせた。

「よかったらさ、このあと蓮水さんも誘って軽く打ち上げでも行くか?」

控室に戻る途中、加藤がそう尋ねてくる。

「いえ、今日はこのまま帰ります。会社に残してきた仕事が山積みなもので」

「そっか。ま、とりあえずお疲れさん」

そう言って手にしていた個包装のフィナンシェをひとつ差し出され、思わず笑ってしまう。

「帰る前に蓮水さんには挨拶しとけよ」

「分かりました」

撤収作業が速やかに進むスタジオの一角で、蓮水は監督と談笑していた。それが終わるのを見計らい、羅華は控えめに蓮水へと歩み寄った。

「本日はありがとうございました、蓮水さん。予定通り全カット無事に収まりました」

羅華が声をかけると、目元に若干の鋭さを残しつつ、蓮水は笑った。

「ええ、お疲れさまでした。原岸さん、初めての担当とは思えないほどスムーズでしたね」


低く通る声に、羅華は一礼で応える。この短い期間でも分かるほどに、蓮水は隙のない男だった。観察眼が鋭く、撮影中も小まめにモニターを確認し、時折スタッフへ的確なアドバイスを送っていた。

それだけに蓮水からかけられた労いの言葉は、羅華を一層安心させた。
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