蜜味センチメンタル
「それで、どの会社にお願いしようかという話になった時、当然付き合いの長いレグナスさんにお願いするつもりだったんですが…加藤さんが担当を外れると聞いて、一度躊躇しまして」
それは当然の判断だ。加藤は軽い口調とは裏腹に、誰もが認める優秀な男だ。だからこそ、信頼されてきた。
シスイ食品にとって節目を祝う大切な記念式典。信頼の置けない人間に任せられるわけがない。
「ですが今日の現場を見て安心しました。やはりこのお話、正式に弊社からレグナスさんへ依頼をさせていただいてもいいでしょうか?」
唐突な申し出に、羅華は内心大きく動揺していた。しかしそれを表に出すわけにはいかない。平静を装いながら、しっかりと蓮水の目を見返す。
「ありがとうございます。とても光栄なお話です。ただ、大きな案件になりますので、正式なご依頼であれば上長とも相談の上で進めさせていただく形になります。それでもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
そう言って、蓮水は鞄から一部資料を取り出した。
「こちらが企画概要です。詳細は後ほど、名刺でいただいた原岸さんのアドレスに送ります」
「ありがとうございます」
資料を丁寧に受け取り、羅華は深く頭を下げる。蓮水は満足げに頷くと、軽く礼をして部屋を後にした。
その背中を見送りながら、羅華は手の中の企画書に視線を落とした。
重要顧客の節目に立ち会う、大きなプロジェクト。会社にとっても、羅華個人にとっても、きっとターニングポイントになる仕事だ。
気づけば、指先に無意識に力が入っていた。