蜜味センチメンタル
・*†*・゚゚


低めのジャズが、店内の客たちの会話に溶け込むように流れている。

カウンターに並ぶグラスの奥で、那色は滑らかな手つきでカクテルを仕上げていた。

「ねえ、那色くんてさ、絶対モテるでしょ?」

テーブルに身を乗り出すようにして、女性客がくるりとグラスを揺らした。ワインの赤が淡い照明に照らされ、グラスの中でゆらゆらと踊る。

「いえ、全然そんなことないですよ」

那色はにこやかに返しつつも、手元を丁寧に動かしている。

「またまた〜、その顔と優しい物腰でしょ?絶対いろんな人に勘違いされてると思うんだけど」

「そういう言い方されると、僕が悪いみたいじゃないですか」

「実際そうなんじゃない?罪な男ってやつ」

那色は苦笑しながら視線をカウンターの端に流す。女性客はまったく動じず、さらに前のめりになった。

「で、プライベートではどんな子がタイプなの?年上?それとも年下?」

「んー…あんまり年齢では見てないですね。落ち着いてる人は好きですけど」

「じゃあ私、結構当てはまってるかも」

グラスを口に運ぶ仕草すらどこか挑発的で、那色の目をじっと見つめながら唇をゆっくりと潤す。

「この後、一杯だけ一緒にどう?」

「……お気持ちは嬉しいんですけど、僕、今夜は店締めまで残る日なんですよ」

「じゃあ明日は?明日ならどう?」

「明日も、きっと残業です」

さらりとかわしながらも、那色の笑顔は少しも崩れない。どこまでも丁寧で、どこまでも一定の距離を保ったまま。

「じゃあ、プライベートで偶然再会したら、その時はアリってこと?」

「それは……その時考えますね」

「ほんとに〜?」

「ほんとです」

と、その時。

カラン、と入口のベルが鳴った。

「いらっしゃいませ——」

那色がふと視線を向けると、夜の空気をまとったひとりの女性が立っていた。

グレーのロングコートに白いマフラー、どこか寂しげな目をしたその姿に、那色の顔がぱっとやわらぐ。

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