蜜味センチメンタル
「じゃあ料理頼んでも大丈夫かな?カルボナーラをお願いできる?」
「またパスタですか」
呆れたように、那色は言う。
「羅華さんいつもパスタばっかり食べてません?栄養偏りますよ」
「だって好きなんだもん」
羅華の放った何気ないひと言に、ピクリと反応する。
——僕には全然言ってくれないくせに…
パスタに嫉妬するなんて、ほんとバカみたいだ。そう自嘲しながら那色は手早く注文票に「カルボナーラ」と書き込み、厨房へと足を運んだ。
戻って見てみれば店内は週末にしては落ち着いていて、ホールに戻ればカウンター席に座る羅華の姿が目立っていた。
普段から口数が多い方ではないが、今日は異様なほどに静かだった。
シンク周りを整える手を止めてふと視線を送る。羅華は前髪の隙間から、どこか遠くを見つめるような目をしている。
かと思えば、ふと気づいたようにこちらに目を向けて微笑む。その笑顔も、どこかつくりものめいて見えた。
——…やっぱり、気のせいじゃないな
元気がない。というより、落ち込んでいる。何かあったに違いない。けれど、何があったのかまでは分からない。
もう一度、今度はきちんと羅華を見た。
やっぱり、笑っていない。
——こんなとき、どうやって聞き出せばいいんだよ…
手元ではグラスがひとつ、ふたつと磨かれていく。けれど心ここにあらずで、気づけばカウンターの端にまで何度も視線を滑らせていた。
「すみません、ラズベリーフィズもらえますか」
「あ、はい、すぐお作りします」
別の客から注文を受けてシェイカーを手にするも、頭の中にはさっきの羅華の微笑みが残っていた。
眉を寄せそうになるなる顔の筋肉を無理やり制して、那色はカウンターの奥でグラスに氷を入れる。
——今、聞くべき?でも、仕事中に踏み込むのもどうなんだ…?
迷ってる間に、ラズベリーフィズは完成していた。