先輩はぼくのもの

ドアの近くに立って、外の景色を見てる先輩。
そして、電車に乗ってる間に感じる視線。


イラつく。
先輩を見んなよ。


「どうしたの?」

「え?」

「なんか…怒ってる?」


ぼくのこと、見てくれてたの?
それだけで嬉しくてニヤけてしまいそう。


「いや…すげー視線感じるなって。先輩が可愛いから、みんなジロジロ見てくるんですよ」


無言で目をパチクリさせてる先輩。
はい、安定の可愛い。



「ぶはっ!!」

え?なに??
なんで笑うの??
ここ、笑うとこ??

可愛いってアピってみたのに。


「わたしなわけないじゃんか。みんな狩谷くんを見てるんだよ」

「…ぼく?」


「狩谷くん、カッコいいし背も高いからみんな見惚れてるんだよ」


カァァァッ

ヤバイッ

ぼくは急いで顔を伏せた。
赤くなってるのがバレないように。


「狩谷くん?どしたの!?気分悪いとか!?」

「…なんでもないんで…気にしないでください」


今まで周りに言われて嫌気がさしてた言葉が
詩先輩に言われると、こんなに嬉しいなんて………

ぼくが攻撃されてどうするんだ。




「先輩、こっちです」

カフェの最寄駅をおりて少し歩く。


「このへん、来たことないんすか?」

「うん。わたしの地元と逆方向だから」


そうだね。
それも知ってる。


スマホを見る。

ちょうどいい時間だな。



「あ、見えてきました。あのカフェです」

「へぇ〜、オシャレなカフェだね……えっ…」

カフェまであと少しという所で立ち止まった先輩。


「先輩?」

無言でジッと前を見ている。


ぼくは先輩と同じ方向を見て、ニッと笑った。



「翔……?」

カフェの前で女と話している北村。
女はこのカフェで働いている従業員だ。

火曜と金曜は17時に仕事が終わるんだよな?
そして、それに合わせて迎えに来ている北村。


「なにして…」



手を繋いで歩いていく北村たち。


「あれ…先輩の彼氏の…北村先輩じゃないですか!?」


ごめんね、先輩。

ツライだろうけど、大丈夫。


ぼくがいるから。



呆然と立ち尽くす詩先輩。


「先輩!どうするんですか!?後、つけますか!?」

早く現実を見て。

そして北村なんか捨てちゃおうよ。



「う、うん…」

先輩はまだ泣かない。

ただ、手も足も震えている。


ぎゅっ

ぼくは震えている手を握った。


「ぼくもついていきます」


距離を保ちながら北村たちのあとをつける。



しばらくすると、ホテル街にやってきた。

先輩が僕の手を握る力が強くなる。


そして、北村たちはラブホテルへと入っていった。
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