先輩はぼくのもの

「…最低じゃねぇか」

手を繋いだまま、なにも言わない先輩。



「先輩…」


少しして俯いていた顔をパッと上げた先輩。


「わぁ〜!恥ずかしいところ狩谷くんに見られちゃったなぁ〜!!ほんとごめんね!!こんなことに付き合わせて!!」

先輩は笑ってる。



「ねぇ先輩。…家まで送ります」


先輩は泣かない。
ぼくはあなたの性格も十分わかってる。



帰りの電車も、家までの道のりもひと言も話さない。
だけど、手は繋いだまま。


そして先輩の家の前に着いた。



「あの…狩谷くん今日は……」


「先輩。なにが好きですか?食べ物で」


「え、なに急に…」

「応えてください」


「………えっと…」


 焼肉

「焼肉」


もちろん知ってるよ。


「じゃ、近々一緒に食べに行きませんか?パーッと憂さ晴らしに」

そう言った瞬間、先輩の綺麗な瞳から涙がこぼれた。



「わっごめんね!そんな風に言ってくれて嬉しくなって涙出ちゃった!」


人前では強がってなかなか泣かない先輩。

だけど、ぼくの前では泣いてくれるんだ?



「先輩、いつでもぼくに連絡してください」


ほんとはすごく抱きしめたい。
キスしたい。
抱きつぶしたい。


だけど、ぼくは【紳士】だから

そんなことはしない。


北村と違うよ?


「あんな人さっさと忘れて…ぼくと焼肉行きましょう」



これ以上は
まだ 踏み込まない。



「狩谷くん…」


あー、早くぼくに沼ってくれないかな。



「じゃあね、先輩」



ーーーーーーーーーーーー


帰り道、スマホのメモ機能を見る。
北村の行動範囲や浮気のことなどをびっしり入力していたメモを削除した。


「あー、やっとウザイ虫排除出来た♪」

ほんと目障りだった。


「先輩に半年間…触れてたって考えるだけでボコボコで再起不能にしてやりたいのに、これで済ませてあげたぼくに感謝してほしいよ」


ねぇ先輩、ぼくしかいないってわかってきた?


あなたの瞳(め)にぼくがはっきり写るようになってきた?



まだまだ…これからだよ。
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