先輩はぼくのもの
「先輩、また明日ね」
パンを数個買って店を出た。
ヴー、ヴー
うわ、すげータイミング。
「もしもし」
「狩谷くん?今いけるかな」
「はい、大丈夫ですよ」
「狩谷くんが割りの良いバイト紹介してくれたおかけで、早速働かせてもらってるよ!マジありがとうな!時給もパン屋より全然良いし助かった!!」
お礼を言うのはぼくだよ。
「お役に立ってよかったです。そのバイト、結構稼げると思うんで」
あんたが辞めてくれたおかげで、ぼくが働けることになった。
「ありがとなー。また飯でも行こうや。ちゃんと礼したいし」
「楽しみにしてます」
カチ
電話を切った。
詩先輩が働いているパン屋で先週まで働いていた男。
専門学校生で、先輩にも馴れ馴れしく話しかけてたし鬱陶しかった。
パン屋に通って仲良くなって、仕事紹介して辞めさせて
店長と仲良くなれば面接も無しで簡単に働ける。
だってさ、蜘蛛の糸は出来るだけたくさん、広く張り巡らしてる方がいいでしょ?
あー、ほんとみんな単純だなぁ。
先輩、ぼくたちの世界が出来てきたよ。
夜あたり…連絡でもくるかな?
ーーーーーーーーー
「お疲れ様でしたー」
21時過ぎ。
バイトを終えてパン屋さんを出た。
まさか狩谷くんが常連さんで、しかもこれから一緒に働くことになるなんて…
偶然って重なるんだなぁ。
カサッ
鞄からクリームパンが入った袋を出す。
〈ぼく、このクリームパンが大好きなんです。先輩にも差し入れ♪〉
狩谷くんが買ってわたしにくれた。
お礼のメッセージ…送っていいかな。
スマホを出してメッセージを作っていると、誰かが前から近づいてきたのがわかった。
「なん…で…」
顔を上げると、目の前に翔がいた。
「詩、ほんとにごめん!!頼むから…話を聞いてほしい!もう一度チャンスがほしい!」
「…なに言ってんの…?無理に決まってるじゃん…!」
頭を下げる翔。
もっと強く突っぱねたいのに、泣きそうな翔の顔を見たら言葉に詰まる。
わたし、あんな場面見たのにまだ翔のことが好きなの?
「翔、ごめんね…。やっぱり無理だよ……」
もう信じられない。
ガシッ
「きゃっ…!」
「詩がオッケーするまで離さねぇ」
「は!?なに言ってんの!?」
「俺は詩が好きなんだよ!!」
意味わかんない!
自分がなにしたか分かってんの!?
「離して!!」
ギリッ
翔の掴む力が強くなる。
「痛ッ…!」
「詩、昨日見た奴はただの…遊びなんだよ。俺にとって1番は詩だから」
うわっ・・
今の言葉聞いて完全に冷めた。
もう、、いい。
「最低…!あんたみたいな最低な男うんざり!!」
「なんだと!?調子乗んなよ!」
翔が手を振りかざした。
殴られる!!
わたしは怖くてぎゅっと目を閉じた。