【番外編】橘さん、甘すぎ注意です
「ただいま」

「おかえりなさい……」

玄関のドアが閉まると同時に、紗良はふわりと抱き寄せられた。まだコートも脱いでいないのに、航太の唇がそっと頬に触れる。

「ふふ、今日はすごくがんばったね」

「がんばったのは……航太くんもでしょ」

「そうだけどさ。あんなに顔真っ赤にして怒ってた紗良、かわいすぎて俺、途中から大変だったんだけど?」

軽口をたたきながらも、航太の手は紗良の腰に回り、自然に唇が重なる。いつもより少し深く、愛おしそうに、けれどゆっくりと。紗良は思わず目を閉じて身を預ける。

「……なにこれ、ただいまのキスにしては、長くない?」

「仕方ないだろ。今日ずっと抑えてたんだから」

小さく笑ったあと、航太がふっと耳元で囁いた。

「――紗良のお父さん、今の俺たちのキスなんて想像できないだろうな」

「ちょ、ちょっと……!」

あっという間に顔を真っ赤にした紗良を見て、航太はさらに意地悪そうに笑う。言葉とキスでじわじわと紗良を追い詰めていく。

「こんなふうに、唇とか、耳の後ろとか……ここ、弱いよな?」

「や……だめ……っ」

蕩けそうな声を漏らしながら、紗良は胸元をぎゅっと掴んで目をそらす。けれど航太は、そんな紗良を抱きしめながら、もう一度優しく口づけた。

ひとしきりキスをしてから、ようやくコートを脱ぎ、洗面所に向かう航太。その背中を見つめながら、紗良はぽかんとした顔で玄関に立ち尽くしていた。

「……いつも思うけど、キスのあとって、家事するモードになるの早すぎるよ……」

「オンオフ切り替えの早さがSPの資質だからな」

そう言って軽やかに手を振る航太に、紗良は脱力しながら小さく笑った。

「ほんと、ずるいんだから……」
< 10 / 27 >

この作品をシェア

pagetop