【番外編】橘さん、甘すぎ注意です
湯上がりの肌に、ふわりと柔らかなバスローブ。髪をタオルドライしながら、紗良は航太の隣に座った。ふたりでミネラルウォーターを分け合いながら、リビングの灯りはほのかに落とされている。

「ねぇ、航太くんってさ……ずっと思ってたんだけど」

「ん?」

「警護でさ、一日中ずっと立ってても……疲れないの? 足、痛くなったりしないの?」

航太は少し笑って、肩をすくめる。

「痛くなるよ。人間だし。でも、そういうのも訓練で慣れてくる。体の重心の置き方とか、疲れにくい姿勢も学ぶからな」

「へぇ……。じゃあ、お腹空いたときは?」

「食事のタイミングは基本的に事前に組まれてる。でも、警護対象の動き次第だから、ずれることもある。空腹は、まあ……我慢するしかないかな」

「眠くなったりは?」

「眠くなることはあるよ。特に夜間警護とかね。でもSPは一秒の油断が命取りになるから。眠気も意識で飛ばす。まあ、根性論みたいだけど」

「すごいなぁ……私だったら、途中でうとうとしてバレちゃいそう」

紗良が感心していると、ふといたずらっぽく顔を傾けて、少し声をひそめた。

「……もし、警護対象がさ。私みたいに、すっごく可愛い人だったら……『可愛いな』って、思ったりするの?」

航太は思わず噴き出しそうになりながらも、真面目な顔で紗良の目を見る。

「まず、警護対象に感情を持つのはご法度。可愛いとか綺麗とか、そういう主観は業務に持ち込まないようにする。どんな相手でも、対象は“守るべき存在”として見るだけ」

「ふーん……でも、“思っちゃう”ことくらいはあるんじゃないの?」

紗良がむくれると、航太はくすりと笑って、バスローブの袖越しにそっと手を取った。

「――あるとすれば、任務が終わったあと。その人が特別な存在になった時だけ。俺にとってそれは……紗良だけだよ」

ぱちんと目を瞬かせた紗良は、バスローブの袖口をぎゅっと掴んだ。

「……ずるい。甘すぎる」

「のしかかる甘さは、まだまだこれからだけどな?」

からかうようにウインクする航太に、紗良は思わず笑ってしまった。
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