【番外編】橘さん、甘すぎ注意です
「今日はね……感情が忙しかったの。だからもう、すっごく眠い……」

「感情が忙しい?」

「うん。恥ずかしかったり、ムカついたり、嬉しかったり……ぐるぐるしてたから。もう心が疲れちゃった」

そう言って、とろりと目を細める紗良。けれど、航太の視線は彼女の頭に注がれていた。

「……まだ髪、濡れてるぞ」

「んー……面倒だから、このまま寝る~……」

「ダメ。前もそれで風邪ひいただろ。俺の話、また聞かないつもり?」

「むぅ……」

そう言いながらも、結局抵抗する気力はないのか、紗良は航太に手を引かれ、洗面台の前へと連れていかれた。

航太は手早くドライヤーを取り出し、タオルドライの続きを優しくしてから、風を当てていく。ブローの手つきは驚くほど丁寧で、まるで髪を通じて言葉の代わりに愛情を注いでいるかのよう。

「……眠いなら、座ってていい。俺が全部やるから」

「うん……ありがと……」

温風の心地よさに、紗良のまぶたはまた少しずつ下がっていく。指先が髪をそっとすくい、優しく頭皮を撫でるたび、甘い夢の入り口をノックされているようだった。

「……はい、終わり」

「……」

うとうとしていた紗良の頬に、航太が軽く唇を寄せた。

「ほっぺがあったかくなってる」

「……航太くんのせい、だと思う」

ふふっと小さく笑って、紗良は目を閉じたまま航太の胸に寄り添った。優しく背を抱き寄せられ、ふたりはそのまま寝室へ。

“好き”という言葉を交わさなくても、すべてが伝わる夜だった。
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