【番外編】橘さん、甘すぎ注意です
病院を出ると、午後のやわらかな日差しが降り注いでいた。ビルの隙間から吹き抜ける風が、病院独特の重たい空気を少しだけ和らげてくれる。

紗良は、隣を歩く航太の横顔をちらりと見上げた。

「……今日は、ありがと。検査、ずっとサボってたから……付き添ってもらえて、助かった」

「うん」

航太は短く返しながらも、手をつないだまま軽く指を絡めるようにして握り直した。そのさりげない仕草に、胸がじんわりと温かくなる。

少し気恥ずかしさをごまかすように、紗良は笑って言った。

「これからも、橘先生に健康管理されちゃうのかな、私。……ふふっ、橘先生、よろしくお願いしますね?」

すると、航太がふっと笑いながら紗良の方を向いた。

「……なんか懐かしいな、“橘先生”って響き」

「え?」

「研修医の頃、そう呼ばれてたなって思い出した。患者さんにも、後輩にも。まさか、今になって恋人にそう呼ばれるとは」

「じゃあ、これからもずっと呼ぶね。……私専属の、お医者さんだから」

「ふふ、責任重大だな」

そう言って、航太は信号待ちの合間に、紗良の額へそっとキスを落とした。

交差点の向こう側で信号が青に変わる。歩き出すその一歩も、隣にいる人の存在が、どこまでも心強く感じられた。
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