【番外編】橘さん、甘すぎ注意です
祭りの灯りが遠ざかり、秋の夜風が少しだけ肌にひんやりと触れる帰り道。
紗良と航太は手を繋いで、並んで歩いていた。

「全部、美味しかったね」
満ち足りた表情で、紗良がほうっと息を吐く。まだほんのりと甘いさつまいもの香りが鼻先をくすぐっていた。

「うん」
航太も穏やかに頷く——が、その瞳には少しだけ別の熱が宿っていた。
「……でも、まだちょっと物足りない」

「え? まだ食べたかったのあった?」
素直に訊き返した紗良に、航太はふっと口角を上げる。
「うん。まだ……紗良を味わってない」

「ば、ばかじゃないの!?」
顔を真っ赤にして、繋いでいた手をぱっと離し、紗良はちょこちょこと距離を取る。

けれど、すぐに航太が歩幅を合わせて詰め寄り、そのまま彼女の腰に片腕を回した。
「離れたら、危ないですよ。お嬢様」
まるでかつての警護官のような声色で囁くと、その低い声に紗良の肩がびくりと揺れた。

「……もう、ほんとにやめてってば」
言葉とは裏腹に、観念したように再び航太の手を取り直す紗良。

繋がれた手から伝わるぬくもりが心地よくて、2人はそのまま、寄り添うように歩き出した。

その背中を、夜風が優しく押していく。
静かに続く帰り道。そこにはもう、不安も警護もいらない——ただ、ふたりの時間だけが流れていた。
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