【番外編】橘さん、甘すぎ注意です
紗良の膝がふるふると震え、足元から力が抜けていく。
必死に立っていようとしても、もう無理だった。
思考の隅で「もう、ダメかも」と弱音が浮かんでしまうほどに。

そんな彼女の唇をまだ塞いだまま、航太がわずかな隙間で囁く。

「……ちゃんと立って」

その声は低く、静かで、けれど拒めない力を含んでいた。
叱るわけでもなく、ただ淡々と――けれど紗良の芯に深く響く。

「ん……無理……っ」

か細い声でそう返すと、すぐにふわりと体が浮いた。
抱き上げられたと気づくのと同時に、彼の胸の温もりと鼓動が、耳元に伝わる。

「わっ……ちょ、こうた……!」

思わず声を上げたものの、彼はただ穏やかに笑う。
まるで最初からそうするつもりだったかのように、ベッドまで迷いなく歩いていく。

柔らかなマットレスにそっと下ろされると、紗良の鼓動がどくん、とひときわ強くなった。
航太はその横で、静かにシャツのボタンを一つひとつ外しはじめる。
その仕草に乱れはなく、彼自身の呼吸までが落ち着いていて、逆に紗良の方が息を呑む。

「……また、そうやって……ずるい……」

まっすぐな視線に見つめられるだけで、言い訳も反論も喉の奥に消えていく。
言葉よりもずっと雄弁に、彼の手と目と体温が、何を想っているのかを語っている。

そして再び唇が重なり、今度はさっきよりも深く、ゆっくりと。
息を吸う隙さえ見つからないほど、温もりが一面に広がる。

その甘さと包容力に、紗良は心の奥までほぐれていくような気がした。
まるで溶けてしまいそうな心地よさ。
優しさに包まれて、逃げる理由も、余地も、どこにも見当たらない。

「……今日は完敗、だなぁ……」

声には出せなかったけれど、心の中でそうつぶやく。
さつまいもなんかじゃ到底敵わない。
この人の温度は、芯まで染みて、甘くて、苦しいくらいに愛おしい。

そっと目を閉じると、彼の手が自分の髪をやさしくなぞっているのがわかる。
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