私の愛した彼は、こわい人
 口を噤む私を見て、コハルは眉を潜めた。

「ま、話したくないなら無理に聞きませんけど? それよりアスカ、すっごい疲れた顔してるよ!」
「えっ。そう?」
「さては今朝のミーティングの件で落ち込んでるな~? そりゃそうだよねえ。初日からあんなに厳しく言われちゃったんだから。パワハラで訴えてやれ!」

 言わずもがな、コハルは神楽オーナーとのやり取りについて不満を抱いているのだろう。

「レガーロ商品の件なら大丈夫。なんとかしてみせる」
「その自信はどこから来るわけぇ?」

 制服を脱ぎ捨て、コハルはブラウスに着替える。ロングスカートは控え目な色だがとてもお洒落に着こなしている。
 コハルに背を向けながら私も素早く私服を着た。長袖で、胸元まで隠した青色のワンピース。
 仕事後で乱れたロングヘアを軽く整えた。

「フェイシャルのお客様のカルテを全部見直して、レガーロ商品のよさももう一度しっかり確認する。いい機会だよ。一人でも多くの方に使ってほしいし」
「ふーん? なんかアスカってさ、レガーロ商品のことになるといつもムキになるよね。なんで?」

 コハルにそう問いかけられても、私は軽く笑ってあしらうだけ。
 だって。レガーロ化粧品は、私の……。

「アスカ、目標が達成できなくても気にしないでね。あの強面オーナーに怒られたらあたしが慰めてあげるからさ!」
「そんな。失敗する前提で言わないで……」
「だってどう考えたって無理ゲーじゃん!」
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