私の愛した彼は、こわい人
 就寝前。
 暢気にオレンジジュースを堪能する彼の後ろ姿を見ると、ますます心が苦しくなって。
 私は、衝動的に彼の背中を抱きしめた。

「……アスカ? どうした?」

 戸惑ったような声だった。
 驚かせてごめんなさい。でも、こうでもしないと不安に押し潰されそうで──

「訊きたいことが、あります」
「なんだ?」
「……今夜起きたトラブルについてです」

 彼の耳が、ピクリと反応した。飲みかけのジュースが入ったグラスをキッチンに置くと、ゆっくり私の方を振り返った。

「……その件ならアスカは心配しなくていい」

 困ったような顔をしないで。
 もう、はっきりと言うしかない。

「タクトが、迷惑をかけているんでしょう?」
「……!」

 彼は目を見開いた。
 お願いだから、正直に話して。

「先に謝っておきます。さっきオーナーのスマホを見てしまいました。ごめんなさい。お店の人たちから助けを求めるメッセージがたくさん送られていました。……その中に、タクトの名前があって」

 私の言葉に、彼は目を逸らす。歯を食いしばり、眉を下げ、とても困惑しているようだ。
 私のせいで、大変なことになっているんでしょう……?

「教えてください。タクトがオーナーの店に嫌がらせをしてるんじゃないですか?」
「……」
「オーナー」
「……」
「黙ってないで、なにか答えてください!」

 思わず厳しい口調になってしまった。
 どうしても誤魔化してほしくないから。
 彼は今にも泣きそうな顔をして、うつむき加減になった。

「……そうだ。アスカの言う通り。小野タクトが、俺の店にかちこんできた」

 ……やっぱり。
 彼は声を震わせながら、先ほどの出来事を語り出した。
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